近年、教育や医療、福祉の現場をはじめ、よく耳にするようになった「発達障害」ということば。これは、生まれつきの脳の特性に由来するといわれており、本人の努力や育て方が原因ではないことが知られるようになってきました。
しかし、なぜ現代社会において、発達障害のある人がこれほどまでに「増えてきた」と感じられるのでしょうか。その背景には、さまざまな要因があると考えられます。例えば、医学や心理学の進歩によって診断や理解が深まってきたこと、社会の多様性への関心が高まり、これまで気づかれなかった特性が表面化してきたこと、などが挙げられます。
まずは、こうした背景を理解するために、発達障害という概念がどのようにして捉えられてきたのか、その歴史をひも解いてみていきましょう。
発達障害の歴史
1. 古代〜中世
発達障害に該当するような行動や特性を持つ人々の存在は、古代から記録に残っています。当然、その原因や特性は理解されておらず、「神の罰」などと見なされることが多かった時代です。
2. 19世紀:知的障害との混同
発達障害という概念はまだ存在しておらず、知的障害と一括りにされていました。この頃は特に自閉的な行動をする子どもが「教育困難」と判断されることが多かったのです。
3. 20世紀初頭:診断の始まり
1943年に、アメリカの精神科医レオ・カナーが「自閉症」という言葉を用い、発達障害の一つである「自閉症スペクトラム障害(ASD)」の存在を初めて明確に記述しました。同時期に、ハンス・アスペルガーも似た症状の子どもたちを記録しました。後にそれは、アスペルガー症候群と呼ばれるようになります。
4. 1980年代以降:DSMによる分類
アメリカ精神医学会の診断マニュアル(DSM)により、発達障害がより明確に分類されました。ADHD(注意欠如・多動性障害)もこの頃から広く知られるようになります。
5. 日本における流れ
日本では2005年に「発達障害者支援法」が施行され、正式に「発達障害」という言葉が法的に定義されました。この法律によって、発達障害が広く知られ、支援体制も整備され始めました。
発達障害の診断件数は近年増加していると言われています。しかし、これは必ずしも実際に発達障害の人が急増しているという意味ではありません。その背景にはさまざまな理由があり、診断基準の変化や社会的認識の広がりなど、いくつかの要因が関係しています。
まずは、アメリカ精神医学会のDSMやWHOのICDといった診断基準が見直され、発達障害の定義や分類がより広く柔軟になったことで、以前は診断されなかった人も対象に含まれるようになったこと。また、メディアや教育現場で発達障害に関する知識が広まり、保護者や教師が早期に特性に気づきやすくなったことも、受診や診断の増加に繋がっています。特に現代の日本社会では対人スキルや協調性が強く求められるため、特性が目立ちやすくなっていることも背景にあります。
そのほかにも、遺伝的要因や生活環境の変化なども一因として指摘されています。しかし、これらについては現在も研究が続けられており、明確な結論は出ていません。
「発達障害が増えている」という現象の背景には、実際の増加以上に、「気づかれ、理解されるようになった」ことが大きく影響していると考えられます。
学習と発達障害
発達障害という概念が世間的に広く認識されるようになった一方で、学校における教育体制はまだまだ十分に整備されている状況ではないといえると思います。
発達特性は子どもによってほんとうにさまざまで、「ちょっと苦手なこと」や「得意なこと」がそれぞれ違います。大人たちが子どもたち一人ひとりの特性に気づき、寄り添いながら関わっていくことが大切であると考えられます。
まずはどんな場面でつまずきやすいのかを知ることが、学習支援を考える第一歩となります。それでは実際に、発達特性のある子どもたちの学習に関して、困りごととなりやすい点をみていきましょう。
■ ASD(自閉スペクトラム症)
- 言語的な理解が難しい:比喩表現やあいまいな指示が理解しにくい。
- こだわりが強く柔軟な対応が困難:予定変更や授業の流れの変化に混乱しやすい。
- 集団活動が苦手:グループワークなどで他者との協力が難しいことがある。
- 感覚過敏:音や光に敏感で、教室環境が集中を妨げることがある。
その他にも、白黒思考の傾向が強く完璧に理解したと思えないと次の単元や問題に進めない、ノートを完璧にまとめられるまで何度もなんども同じところを繰り返し書き続けて勉強が一向に進まない、など、こだわりの強さから学習がうまくいかないケースもあるようです。
■ ADHD(注意欠如・多動症)
- 集中力の維持が困難:授業中に注意が散漫になりやすく、聞き漏らしが多い。
- 忘れ物や提出物の管理が苦手:宿題やプリントの提出を忘れやすい。
- 多動性や衝動性:授業中に立ち歩く、話を遮るなどの行動が見られる。
- 作業の計画・整理が難しい:やるべきことの優先順位をつけるのが困難。
一般的には、年齢が上がるにつれADHDの傾向は [多動=注意欠如] から [多動<注意欠如] となっていくことが多く、大人になると多動がある程度は落ち着き不注意傾向が目立つようになるといわれていますが、特に低学年のうちはいすに長時間座っているだけでも苦痛となる場合もあります。ADHDの子どもに限らず発達特性のあるお子さまは体幹が弱いともいわれています。そのため、授業に集中しづらい要因のひとつとなっていると考えられます。
■ LD(学習障害)
- 読み書きに困難がある(ディスレクシア):文字を読むのが極端に遅い、誤読が多い。
- 書字表現の困難(ディスグラフィア):漢字や文を正確に書くのが難しい。
- 計算や数字の理解が苦手(ディスカリキュリア):基本的な計算や時間・量の概念がつかみにくい。
- 一見すると「やる気がない」と誤解されやすい:知的発達に遅れがないため、周囲の理解が得られにくい。

ディスレクシアの方たちは、文字がこのように見えることがあるようです。何とか読めないことはないですが…。真ん中以外の文字を読もうとすると大きなストレスを感じ、読むことにとても労力を要するかと思います。学習がストレスになることは、想像に難くないですね。
リベルテでの実際のサポート
リベルテでは発達障害や不登校のお子さまを含む、学習支援の必要なすべての子どもに対して支援を行うことをビジョンとして掲げております。実際にどんな方法で支援を行っているのか、いくつかご紹介させていただきたいと思います。
■ ASD(自閉スペクトラム症)への学習支援方法
視覚的なサポート
イラストや写真が入った教材を用いることで、理解しやすくなるよう工夫しています。
予測可能な環境作り
ルールや予定を明確にし、見通しを持たせることで安心感を与えるようサポートします。具体的には事前に担当する講師を保護者の方へお伝えしておくなど、保護者の方とも連携してできるだけその子に合った方法で見通しが立てられるよう支援を行っています。
興味・関心に合わせた教材選び
その子の「好き」に合わせたテーマを使うことで、学習意欲を高めることができます。初回面談でのヒアリングをもとに、その子の好きなものや関心のあるものから学習意欲へとつなげる支援を行っています。
感覚過敏への配慮
感覚過敏に対しては音や光に対する刺激を減らすなどの環境調整が必要です。そのため、リベルテでは少人数制を採用しております。一人ひとりが落ち着いた環境で学べるよう配慮しております。
その他にも、時間感覚をつかみにくい生徒さんには、例えば10分間で問題を解く練習を繰り返すなど、時間の感覚を身につけながら学習に取り組んでいけるようサポートを行います。
■ ADHD(注意欠如・多動症)への学習支援方法
短時間で区切った学習
集中力の続く時間を見極め、タスクを小さく分けています。飽きずに取り組めるようにいろいろな種類の教材を準備しております。
こまめなフィードバック
できたことをすぐに認める声かけを行っています。そうすることで、自信やモチベーションが高まるように意識づけを行っています。
身体を動かせる学習環境
時には立って学習することもあります。また、必要時にはバランスボールやエアクッションを導入する場合もあります。動きたい気持ちを発散しながら学習できるよう環境を調整します。
視覚的な整理ツールの活用
ToDoリスト、タイムタイマーなどで「見える化」を行い、やるべきことを明確に伝えます。また、教材はなるべくカラーのものを使用し、視覚的に飽きない工夫もしています。
■ LD(学習障害)への学習支援方法
ICTツールの活用
読み書きが苦手な場合は、音声読み上げソフトや音声入力などを使います。アプリを導入したiPadを準備しております。
多感覚的な学習法
「見る」「聞く」「触る」など複数の感覚を使うことで、理解が深まりやすくなります。できるだけその子の得意な感覚からアプローチしていくようこころがけています。
苦手な部分に配慮した教材選び
難しい漢字は色分けしたります。読み飛ばしが多い場合は行間を広くした教材を用います。そのほか個々に合わせた教材の作成も行っています。
発達“障害”ってなんだろう?
発達障害の方たちは生きづらさを抱えている、といわれることが多いですが、そもそも“障害”とは何なのでしょうか。障害の線引きって?適応できていたら生きづらくても障害とは呼ばないの?“障害”って誰にとって?何にとって?と考え始めるときりがありません。
「障害をもつ人」ではなく「障害がある人」ということばをみなさまも耳にしたことがあるかもしれません。障害はその人の中にではなく、社会の中にあるという考え方ですね。
日本はまだまだ発達障害や精神疾患を抱える人にとって生きにくい社会であると日々感じますが、これからの未来を担っていく子どもたちには、差別する側にもされる側にもなってほしくないと切実に思うのです。
リベルテが目指していきたいこと
まずは、自分の手の届く範囲から、発達障害と学習のあいだにある壁を少しずつとりはらっていきたいと思っています。例えば、学習の中で出会う小さな「つまずき」や「わからなさ」を、そのままにせずに丁寧に拾い上げていくこと。それは、子どもたちの学びを支えるだけでなく、社会の中にある見えない“障害の壁”をとりはらうことにもつながっていきます。
発達特性のある子どもたちが、自分のリズムで学べる場があること、わかりやすく教えてもらえること、それを「特別」とするのではなく「当たり前」として受け入れられる社会。それが実現すれば、誰もが自分らしく生きられる未来に一歩近づくことができるはずです。
学習支援は、社会を変える「はじまり」です。目の前の子どもたちに寄り添い、小さな理解と工夫を積み重ねていくこと。その一つひとつが、偏見や誤解、無関心という名の“壁”を少しずつ崩していく力になるのだと、わたしは信じています。